Human Capital Consulting

コラム

2015年3月28日

■ 戦略を実現する「現場力」強化法 − 5つのチェックポイント

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 日本企業、外資企業問わず、成長を目指す中堅企業の経営者から「現場力」強化のご相談が増えています。

 マーケットの成熟化や顧客の高度化が進展し、事業戦略や新商品の差異化が打ち出しにくくなっている厳しい競争環境の中で、
現場における戦略実現力、すなわち「現場力」の巧拙が企業業績の良し悪しに大きな影響を与えていることが背景にあるようです。

 加えて、日系・外資系にかかわらず成長を目指す多くの中堅企業では、全ての現場に優秀人材を配置するだけの人的資源的
余裕がなく、どうしても「現場力」強化に手が回りません。

「現場力」不足を嘆く、トップ・マネジメントの生の声は・・・

 □ 日々細かいことまで判断を求められる事案が多い
 □ 現場は言われたこと以外は自立的に動かない
 □ 定例会議は『モグラ叩きゲーム』化していて、腰を据えた取り組みができない
 □ 現場で起きる環境変化に柔軟に対応できていない
 □ 現場部門内での連携が取れておらず、チームワークがとても悪い
 □ それに現場の人材はいつまでたっても成長しない
 □ これでは、毎期毎期作る戦略も事業計画も絵に描いた餅、無駄ですかね?!…

 しからば、どうすればよいのでしょうか。

 コンサルティングの実践経験によれば、多くの場合、Plan=Do=Seeサイクル(PDCAサイクル)、つまり、現場の業務マネジメント・
サイクル(下図参照)をシッカリ回すことが、「現場力」強化の突破口になります。もちろん、私たちも現場密着志向の「伴走」型の
コンサルティング支援をすることになります。



「えっ、そんな単純なこと?それはもうやらせていますよ」という疑いの反応が聞こえてきそうですが、もし本当に、「現場力」
=現場の実行力を強化したいのであれば、むしろ現状認識を疑い、次の5つを「胸に手を当てて」チェックしてみてください。

1. 現場部門では「可視化された部門アクションプラン」による定期的な進捗管理が徹底的に行われているか?

2. 現場マネジャーは事業戦略と自らの役割の連関を「行動ベース」で理解しているか?

3. 現場部門内のメンバーは自部門のアクションプランと自らの役割の連関を「行動ベース」で理解しているか?

4. 現場部門内のメンバーは、自らの可視化された「個人アクションプラン」を実行しているか?

5. Plan=Do=See現場の業務マネジメント・サイクルと「人材マネジメント・サイクル」を連動させているか?

いかがでしょうか。
1つ1つ、見て行きましょう。



1. 現場マネジメント・サイクルの可視化
          <1. 現場部門では「可視化された部門アクションプラン」による定期的な進捗管理が徹底的に行われているか?>

 ここでのキーワードは、「可視化された部門アクションプラン」です。

 より具体的には、部門の行動項目とその詳細作業ステップ、担当、スケジュール、行動目標やKPI(Key Performance Indicator:
主要業績評価指標)等を他者に分かるようにドキュメント化した現場部門の行動計画のことです。

 現場の行動計画の立案・実行・進捗管理=PDSマネジメント・サイクルを、目に見える形でキッチリ回している中堅企業は、実は
あまり多くありません。

 可視化が不十分な現場では、目の前の業務に忙殺され、未来のために今やるべきことが後回しにされてしまいます。結果として、
半年後も、一年後もやはり目の前の業務が繰り返されるという悪循環に陥ってしまうのです。

 この悪循環を断ち切り、現場力を強化するためには、「シンプルに」、可視化したPDSマネジメント・サイクルを徹底的に回すこと
です。「徹底的」とは、例えば、私たちのような外部のコンサルタントが客観的に見ても、成功に向かっていると、理解・納得できる
ように回っているかどうかです。

 現場がマネジメント・サイクルをシッカリ回すことに成功し始めると、例えば、次のような現象が現れます。

 ・ 現実的で実現可能性の高い、具体的な業務計画が作成されてくる
 ・ 計画通り進んでいない例外事項だけの判断のみが求められるようになる
 ・ いつまでも放置される案件が少なくなる
 ・ 定例会議では、その場その場のやっつけ仕事、『モグラ叩きゲーム』が少なくなる
 ・ 現場が必死に計画通り、動こうとしていることが実感できる

 今一度、皆さんの現場のPDSマネジメント・サイクルがシッカリ回っているか、チェックしてみてください。

2.戦略ストーリーの理解 <2. 現場マネジャーは事業戦略と自らの役割の連関を「行動ベース」で理解しているか?>

 現場マネジャーは、事業戦略のストーリーを十分理解しているでしょうか。その上で、自らの果たすべき役割を正しく認識し、事業
戦略から求められる自らの役割を自らの行動のレベルまで「翻訳」して語ることができるでしょうか。

 残念ながら、この領域まで到達している現場マネジャーには、なかなかお目にかかることはできません。

 自らのPDSマネジメント・サイクル、つまり、自ら果たすべき役割が、事業戦略上、どこに位置付けられているか理解していない場合
内外の変化にどう対応すべきか、よく分からなってしまいがちです。また、事業戦略が前提としている経営環境の理解なくして、環境
変化を主体的に捉えることができるはずもありません。

 ですから、戦略を分かりやすく表現したバランスド・スコア・カード(戦略マップ)とマネジメント・サイクルとを連動させたトレーニング
など、特別な強化策が不可欠です。

 このレベルまで進んでくると、以下のような現象が起きてきます。

 ・ 現場は経営者や上司に言われたこと以外にも、現場で起きる変化に主体的に対応し始める
 ・ 現場の定例会議は、行動計画による腰を据えた取り組みや改善活動の進捗管理がメインテーマとなる
 ・ 実行可能でリーズナブルな新規プロジェクトや投資計画の提案が現場からあがって来はじめる
 ・ 現場マネジャーが少し頼もしく見えてくる

 現場マネジャーに対し、戦略ストーリーと自部門との関係の理解を、自らの行動レベルまで落とした視線から繰り返し繰り返しの
トレーングで浸透させてみてください。

 私たちの実証例によれば、この2つのポイントを実行するだけでも、「現場力」は目に見えて強化されるはずです。もちろん、一朝
一夕に完成レベルまで到達する訳ではありませんので、結果が出てくるまでの繰り返し=戦略的反復がとても重要です。

 さらに、「現場力」強化法は、あと3つあります。
 次回以降、新しいチャートを紹介しながら説明していきましょう。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2015年2月6日

■ 戦略人材輩出へ − 5つのTMギャップを乗り越える「戦略ストーリー」

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 それでは、トップ・マネジメントや人事部門トップが、前回提示した5つのタレント・マネジメント(TM)戦略ギャップを埋めるために何を
すべきなのか、解決へのアプローチを提示したいと思います。(念のため、前回のコラムをご一読ください)

 実は、5つのTM戦略ギャップ(前回の図参照)が明確となっていますので、解決策はストレートでシンプルなものとなります。

(1) タイムフェンス・ギャップの克服
   先3年以内を想定した事業戦略に対し、3〜5年以上を前提とする人材モデルの時間軸のギャップは、その時間軸を合わせること
  により解決されえます。
   つまり、人材モデルの源泉は、事業戦略ではなく、より長期で安定している「ビジネスモデル」に求めるべきです。先5年以上を
  見据えたビジネスモデルを特定し、このビジネスモデルを実現・強化できる人材モデルを開発すればよい訳です。
   このビジネスモデルの特定は、「言うは易し行うは難し」の典型例に見えますが、実務的には、次のような5つの「構造」への
  着眼点で意外と容易に可能となります。

   @ 事業環境の構造的な歴史的変化に着目する
   A 過去から現在の事業戦略の中で、実際に持続的に行われてきた戦略を取り出す
   B 変わりにくい組織構造と変革できる組織構造を峻別する
   C 人材モデルの特定に必要な大まかさで、骨太なビジネスモデルを特定する
   D 現在在籍する最高のハイパフォーマーの人材モデル構造を整理する

   5つの「構造」に着目する理由は、ビジネスモデルや人材モデルの特定は、短期的には変わりにくい「構造」をあぶりだすことに
  他ならず、また、人材モデルの特定の観点から見ると、必ずしも事業戦略で求められるような外部マーケットを想定した具体的な
  ビジネスモデルを必要としないからです。

(2) ボラティリティ・ギャップの克服
   時間軸の壁(タイムフェンス・ギャップ)を乗り越えると、その次に待ち構えているのは、将来の事業環境の不確実性のため、
  現時点で確定した人材モデルに焦点が合わせづらいという問題、すなわち「ボラティリティ・ギャップ」を克服する番です。
   こちらの解決策は極めて単純です。
   将来の不確実性は避けえませんので、定期的に(例えば毎年)人材モデルと人材ポートフォリオの検証を行い、必要に応じて、
  微調整や刷新を行い、タイムリーに変化に対応すればよいということになります。まるで、「金融資産」のポートフォリオの定期的な
  見直しを「人的資産」でも行えばよい訳です。

(3) ケイパビリティ・ギャップの補強
   包括的なタレント・マネジメント(TM)戦略策定の経験回数が少なく、社内ノウハウが蓄積できていない企業では、その失敗確率
  が非常に高いと言わざるを得ません。その場合は、迷わず、外部の信頼できる組織・人事コンサルティング・ファームにお声掛け
  ください。
   その際、ナレッジ・トランスファー(知識移転)のできるコンサルティング・サービスにより、社内へのTM戦略策定のケイパビリティ
  を少しでも高める努力を図るべきです。

(4) 実行スピードの加速
   事業環境の激変やグローバル競争が激しい中で、今までのような選抜スピ−ド、施策実施スピードでは後手を踏んでしまうこと
  は自明です。
   実行スピードの加速化には何と言っても、トップ・マネジメント層のリーダーシップのもとCFT(クロスファンクショナルチーム)に
  よるTM戦略推進が必要となります。
   包括的なTM戦略の推進は、社内の利害関連部署が多岐にわたり、人事部門だけではその調整に時間がかかりすぎてしまう
  ことや各部門の施策実施が相互関連性の中でタイムリーに実施されるなどの必要があるからです。

(5) 情報システムとの統合的アプローチ
   TM戦略を実行するための情報システムの活用では、その統合的アプローチができていないことが最大の問題です。TM戦略の
  一環として、情報システム活用戦略を、現在のシステム・DB(データベース)レビューから新システム候補や最新情報技術の利用
  の検討、そして何よりもシステムの運用・活用体制まで視野に入れ、立案することで施策実行の成功確率を高めることができる
  訳です。

 以上のように、5つの戦略ギャップを乗り越えるための解決へのアプローチは比較的シンプルですが、残念ながら、現実の実践
過程には非常に困難が伴います。

 そして、その実践での最重要KSF(成功要因)は、トップのリーダーシップです。

 トップ・マネジメント層の皆さん、中長期的な事業の展開を支える素晴しい人材の輩出を目指すためには、その第1歩として、ビジネスモデル〜人材モデル〜タレント・マネジメント(TM)戦略〜TM施策〜TM情報システムに至るまでの5つのTM戦略ギャップを乗り越え、現実的で実現可能な「戦略ストーリー」を自らの手で描ききることをお勧めします。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2014

■ 戦略人材輩出へ−乗り越えるべき5つのタレント・マネジメント戦略ギャップ

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 事業環境の激変に対応する新しい事業戦略を担う人材モデル、人材ポートフォリオの実現に必要なのがタレント・マネジメント(TM)戦略やTM施策、TM情報システムである、ということは理解している・・・が、「それをどうやって実現するのか!」。コンサルティングの現場で私がよく聞く、多くの企業経営者層の諦めにも似た、悲痛な叫びです。

 なぜTM実現の困難さを感じるのか。それは、トップ・マネジメントにとって、激変する事業環境に対応する新しい事業戦略は比較的見え易くても、戦略実現を担う人材モデル輩出の骨太なロジックが見え難いからです。つまり、見え辛くさせている原因があるからなのです。

 トップ・マネジメントは、タレント・マネジメントの成功のために、戦略人材の輩出に向けたロジックを見えにくくさせている、5つの主要TM戦略ギャップ(TM戦略課題)を克服しなくてはなりません。(下図に沿って以下で説明)



(1) タイムフェンス・ギャップ
     通常、事業戦略は先3年程度を想定して組立てられます。一方、人材開発のタイムスパンは3〜5年、あるいはそれ以上という
    ことになります。言わば事業戦略が成し遂げられる頃に人材が開発されても遅い、ということになる訳です。この時間軸のギャ
    ップ、つまり「タイムフェンス・ギャップ」によって、新しい戦略実現を起点とする人材モデル開発(人材育成)というアプローチは
    放棄され、場合によっては社外からの安易な人材獲得に全面的に頼ったり、あるいは事業とは直接関係ない所謂「人材像」で
    我慢したりせざるを得ません。
     例えば、かつて「上流」へと戦略的転換を目指したIT企業群が外部からコンサルタントを大量採用しましたが、寡聞にして成功
    した事例を知りません。あるいは「求められる人材像」といえば、ダジャレのような「自立と自律」、または「チャレンジ」、「当事者
    意識」、「ソリューション志向」、「協調性」、「自ら実践」など、会社名を隠せば、どの企業のことなのかサッパリ分からない、もの
    足りない「人材像」となってしまいます。
     タイムフェンス・ギャップを解消しない限り、社内外人材の戦略活用や事業特性に立脚した人材像を描き切ることはできず、タ
    レント・マネジメント(TM)戦略に経営者は確信が持てないのです。

(2) ボラティリティ・ギャップ
     仮に時間軸の壁(タイムフェンス・ギャップ)を乗り越えたとしても、3〜5年以上先の人材像を描くとなると余りにも事業環境の
    変化の不確実性が大きいため、現時点で確定した人材モデルに焦点が合わせづらいという問題に直面します。
     いわゆる「ボラティリティ・ギャップ」です。
     不確実だから人材モデルは「描きにくい」 → 時間の経過とともに人材モデルは「描けない」 → 放置状態ということになっ
    てしまいがちです。ですから、人材モデルや人材ポートフォリオ面からボラティリティを逓減させる工夫、アプローチが必要にな
    る訳です。

(3) ケイパビリティ・ギャップ
     次なる問題は、新しい人材モデルや求められる人材ポートフォリオの実現に向けた、包括的なタレント・マネジメント(TM)戦略
    を効果的に描くことができるのかという極めて実務的な問題です。
     M&A成功のカギが人事統合にあるわけですが、M&Aの経験回数が少なく、M&Aの社内ノウハウの少ない企業では、その
    失敗確率が非常に高いと言われています。新しい事業戦略を下支えするTM戦略立案においても、その経験や能力(ケイパ
    ビリティ)の多寡による巧拙の差が決定的に重要になるのです。

(4) 実行スピード・ギャップ
     4つ目の関門は、周知の通り、TM施策の実行スピードが遅すぎないかということです。例えば、多くの日系企業の人材選抜
    はある程度の、もしくは長期にわたる期間をかけた、間違いの少ない社内昇進を実施しています。事業環境の激変やグロー
    バル競争が激しい中で、今までのような選抜スピ−ド、施策実施スピードではキャッチアップできないのではないかという問題
    です。

(5) 情報システム・ギャップ
     ある程度の規模以上の企業にとっては、TM施策を実行するための情報システムは不可欠です。しかし現実のシステム活用
    では、既存のパッケージソフトの標準機能を前提にして「何をしようか」と考えることも多く、とてもTM戦略の実現に活用している
    とは言えない事例が多く見られます。
     TMシステムと呼ばれている情報システムの利用面でも大きな課題があるのです。

 以上のように、(1)事業戦略とTM戦略との時間軸ギャップ(2)不確実性によるギャップ(3)TM戦略立案の経験・能力ギャップ(4)施策実行スピードのギャップ(5)情報システム活用のギャップ、この5つの戦略ギャップが、トップ・マネジメントをタレント・マネジメント(TM)の実現へのチャレンジから遠ざけている主因なのです。

 ですから、タレント・マネジメント成功に向けて努力されている経営者や人事部門の責任者の方々は、社内外のリソースをかき集めてでも、まず、これら5つのTM戦略ギャップを乗り越えることにフォーカスする必要があるのです。

 次回は、この5つの戦略ギャップを埋めるために何をすべきなのか、解決策へ向けた基本的な考え方を提示したいと思います。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2014

■ タレント・マネジメント − 戦略人材輩出への第一歩

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 やはり、タレント・マネジメントについてのお問い合せが増えています。

 持続的な事業の成長を実現する人材群を輩出・確保する仕組みを強化するという意味での、タレント・マネジメント(TM)に注力すべきことは理解しているようですが、多くの企業からTMへの疑問や躊躇の声が聞こえてくるのも事実です。

 これは、タレント・マネジメント(TM)を狭義に捉えてしまい、本来の戦略的な位置付けを見失ってしまった結果だといえるでしょう。

 曰く、「グローバル競争に日々さらされているので、タレント・マネジメント(TM)の必要性は理解していますが、多額の情報システム投資までは踏み切れませんね」、「社員規模が大きくなると、人材把握のためのシステムは必須だが、TMの目的や効果性がハッキリしないので、できるだけ安く済ませようと思っています…」、「とりあえずTMシステムを導入したのだが、運用に手間がかかるので現段階ではあまり満足していないのですが…」

 残念ながら、多くがタレント・マネジメント(TM)情報システムの活用に関する疑問や躊躇に終始しているようです。情報システムが提供する「今どこにどのような人材がいるのか」はアズイズのスナップショットとしては重要な情報ですが、その程度では、効果性に疑問や実施への躊躇が生まれてしまうわけです。

 なぜなら、数百名や千名以上の企業規模であれば、TMのための情報システム投資は必須ですが、「投資」はそれだけではないからです。キャリアデータや人事評価データの入力・更新の手間に加え、対象者のキャリアや評価を見定めるための長時間繰り返される人事評価会議、人材発掘のためのアセスメントなど、TMを有効に機能させるための運用コスト(人件費)=「投資」が膨大なものになることが予想されるのです。

 つまり、システムと運用に関わる膨大なTM投資に比べて、いかなる効果が期待できるのかがハッキリしないことが問題となっているわけです。もちろん、TM投資額は見積れても、その効果を金額で見積ることは困難ですが、少なくとも、その戦略的ロジックによる有効性を明らかにする必要はあります。

 そこで今一度、タレント・マネジメント(TM)の戦略的意義を整理してみたいと思います。持続的な事業の成長を実現する人材群を輩出・確保する仕組みとしてのTMの意義は、次のように考えられます。(下図参照)

 グローバル化やビジネス・サイクルの短期化、業界再編、顧客の高度化など、事業環境の激変に迅速に対応するために、持続的な競争優位の確立を目指す事業戦略への転換が求められている。この新しい事業戦略は難易度が高く、その戦略の実現を担う人材モデルの登場が待たれるのだが、現在の人材ポートフォリオにはライトパーソンが見当たらず、その組み換え(採用や人材開発等)の加速化が必然となる。そのために必要なのが包括的なTM戦略やTM施策であり、それらを下支えするのが、TM情報システムである、というロジックが正解ということになるでしょう。



 企業は情報システムという「木」から目を離し、タレント・マネジメント(TM)全体という「森」をよく見る必要があります。情報システム会社は、TMを戦略的ストーリーとして語る必要があるわけです。

 そこで次回以降、「意義やロジック、その重要性は分かったが、実際にタレント・マネジメントをどのように仕組化、導入したらよいのかが分からない」という疑問に答えていきたいと思います。

 そのためには、まず、なかなか手ごわい、5つの大きなチャレンジ(課題)に立ち向かわなくてはなりません…

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ コモディティ化したソリューション営業からの飛躍−その突破口

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 今年5・6月掲載コラムでは、コモディティ化しつつあるソリューション営業から抜け出すには、BSP(ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル)への飛躍が必要だと述べましたが、今回は「ではどう始めるのか?」、その突破口を、実践的に解説してみたいと思います。

 高付加価値のBSPを目指すには、次のような4つのソリューション・ステップを辿ることになります(今年5月コラム参照)。BSPへの突破口は、まずその第1・第2段階の「準備」と「顧客課題の把握」にあります。

     

 BSPの第1ステップ、準備段階では、顧客企業の事業環境の変化と戦略課題を大づかみに構造化し、顧客企業の経営者=部長=課長の各レベルの問題意識を可能な限り仮説化することが重要です。もちろん、間違えていてもかまいません。仮説ですから…とにかく、仮説を持つことが重要です。

 下の例は、B2Bをメインとするサービス業のある成長企業から問い合わせをいただいた成功例です。非上場企業でしたので、事前の情報は非常に限られており、むしろ難易度の高いものでした。

@ 課長レベルからの「マネジャー研修」の依頼(以下、下図参照)
  ・メールでは「部長層以下の現場へのグリップが効かなくなっており、マネジメント・スキルの強化が必要で、手始めに研修を
   考えている」との問題意識。

     

A 人事部長は「部門横断的リーダーシップ」の欠如に問題意識。
  ・訪問時の人事部長へのインタビューによると、今までは商品力があり、顧客ニーズもパターン化されていたので、右肩上がり
   の成長期にマッチした「行け行けドンドン」型のプレイング・マネジャーでよかった。
  ・組織横断的な動きが求められる今、実践的なマネジメント・スキルを伴った現場主義のリーダーシップが求められている、
   というのが部長レベルの認識。

B 研修を包含する「キャリア開発」
  ・難易度の高い部門横断的な動き方が求められるのであれば、研修を行うだけでは力不足で、戦略的アサインメント等の
   「キャリア開発」という少し足の長い大掛りな施策の視点も必要だということで、一致。研修とともに提案をする運びとなる。

C 新しいリーダーシップは「顧客の高度化」という事業課題から派生
 ・社長・役員同席の提案書の説明会では、求められるものは「眼のこえた顧客」の壁を打ち破るリーダーシップを持った
   マネジャーの輩出で、そのような人材は社内には非常に少ない、との背景が明らかになる。

D そこで、顧客高度化に対応できる新しい人材モデルを特定し、

E このモデルに適合する人材の獲得・開発スピードを上げる包括的人事戦略の策定と

F 人事・組織開発に向けた諸施策の実行という文脈の中で、「マネジャー研修」と「人事戦略策定」を提案することとなった。

 結局、C顧客の高度化により、現場において他社と差異化のできる、D新しい人材モデルが必要となり、その文脈の中で、@マネジャー研修が求められていたということになると思います。この連関を整理することこそ、BSP第2ステップの「顧客課題把握」となるのです。

 以上の事例のように、BSPは、まず顧客からの具体的な依頼事項と事業課題とを接合し、顧客企業の固有の課題構造を整理するプロセスを通じて、顧客が整理できていない事業課題〜依頼事項に至るまでの連関を、潜在ニーズとして浮き彫りにしていきます。

 そして同時にそのプロセスは、クライアント企業の経営者=部長=課長の各レベルの問題意識を関連付け、利害関係を調整するプロセスでもあります。

 この2つのプロセスを並行して辿ることで、プロジェクト獲得の確率を高めるだけでなく、顧客の戦略課題を深く理解し、顧客と長期的に良好な関係を築くことができるようになるわけです。

 いかがでしょうか。BSPへの突破口、ご理解いただけましたでしょうか。
 上図のようなフレームワークで、皆さんのビジネスを考えてみてください。きっと突破口が開かれると思います。

 このフレームワークが皆さんへの、「クリスマスプレゼント」になることを心より願っています。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ 今度は本当の・・・ War for Talent 激化?!

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 この4月から施行された「改正高年齢者雇用安定法(改正高年法)」は、60歳の定年後も希望者全員の雇用延長を義務づけ、継続雇用の必要な年齢は段階的に引き上げられ、2025年度に65歳までとなります。主要企業は、「高年齢者」層(法律用語って不適切な表現が多いですね〜)のモチベーション維持と雇用延長で生じる人件費アップとのトレードオフに苦慮しているようです。

 しかし、この「改正高年法」、立場を変えてみると、質・量ともに優秀人材の確保に悩む成長企業群にとってビッグ・チャンスとなるかもしれません。もちろん高年齢者層の採用のことではなく、30歳代以下の中間・若年齢層の War for Talent のことです。

 ベンチャー系企業や成長ポテンシャルのある中堅〜中小企業、新しい成長を目指す外資系企業など、事業の急速な成長を志向する企業群からは、リスクの取れる自立(&自律)的な優秀人材が質・量ともに不足しているという声が数多く聞かれます。人材マーケットにおけるミスマッチが構造的に存在していると言えるのかもしれません。

 今回の「改正高年法」は、意外にも、このような需要を満たす、人材の供給源を作り出すキカッケとなる可能性が高いのです。新しい War for Talent の始まりと言っても過言ではなさそうです。

 周知の通り、「改正高年法」への主要企業の予想される対応は・・・

A.雇用延長による人件費アップを甘受できる企業
  サントリーなど、人件費アップをそのまま吸収できると考えている少数派の企業群。

 人件費アップを受忍できない多数派の企業群の対応は、次の2つに大別されます。

B.雇用延長によるコストアップ分を、「現役世代」の賃金カーブ(「年功的賃金」部分)を引き下げる(コストダウンする)ことで相殺
   しようとする企業

C.年功的でない職務給・役割給的報酬制度を導入することで、人件費アップを最少化しようとする企業

 これら3つの類型の中で、「人材供給源」となる可能性が高いのは、B層企業群でしょう。

 それは2つの主要な経路をたどり、人材を流動化させると考えられます。

1. 「時間割引」効果によって「感じる」生涯賃金が減る

 B層企業群の若年齢層社員からは、自分の生涯賃金の総額はあまり増えずに、支払期間が延長されるように見える訳です
 から「今日の1万円より明日の1万円が少なく感じる」という行動経済学の「時間割引」効果が効いてしまいます。つまり65歳
 まで賃金支払を延長されることで、実際には生涯賃金の総額が変わらなくても、社員にとっては少なくなると感じてしまうこと
 でしょう。中間・若年齢層が流動化する理由となりえる訳です。

2. リスク・テイカー(リスク選好)にとっての魅力度が下がる

 雇用延長によるコストアップ分と「現役世代」の賃金カーブの引き下げとで相殺しようとするのですから、B層企業群の賃金
 カーブは全体としてボラティリティ(変動率)が小さくなります。ボラティリティ=リスクとリターンの変動率ですから、若年齢層の
 リスクを取れる自立(&自律)的な優秀人材にとって、報酬やキャリアの魅力度が下がるということになります。

 結局、今回の「改正高年法」によって、多数派のB層企業群の中に埋もれている、若年齢層の自立・自律型優秀リスク・テイカーに流動化圧力、すなわち転職へのPUSH「プッシュ」圧力が強く加わることが予測されるのです。

 成長ポテンシャルの高いベンチャー系、中堅〜中小企業や、外部から成長チャンスを狙う外資系企業にとっては、今までなかなか採用の難しかった若手優秀人材に対する War for Talent を仕掛けるチャンス到来なのです。

 ただし、魅力のあるポジション、キャリアパス、報酬体系を積極的に構築し、そのストーリー性をより明確に提示することで、若手優秀人材を自社に引き付けるPULL「プル」吸引力の強化が必要なことは、言うまでもありません。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ 顧客接点で生き残る War for ‘ Worker ' に備えよ!

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 今回着目するのは、一時期流行した The War for Talent" 「ウォー・フォー・タレント」、ではなく、The War for ' Worker '
(優良非正規社員の獲得・育成競争)です。

 先日発表された求人倍率統計では、「アベノミクス」以前の昨年5月からの趨勢的上昇が労働市場の需給ギャップを縮めてきていることが見て取れます。

 コンサルティングの現場においても、非正規社員に関わる人事制度や人材開発に関わるご相談が増えてきていることを実感しています。

 最近の非正規社員の需給ひっ迫傾向に加え、企業が求める非正規人材へのニーズの高度化、人材の質やコンプライアンスなど、経営環境の構造的変化によって The War for ‘ Worker ' に備えが必要となっているようです。

 コンサルティングのご相談は、主に小売・流通業やサービス業からのものです。例えば、金融機関や不動産業等の各支店で活躍されるスタッフの方々や百貨店や大規模SCで比較的高額な商品の販売員の方々、インターネット通販に代表されるような多様な商品を巨大配送センターでさばくオペレータの方々などを対象としたご相談です。

 その何れもが、「顧客接点」における差異化に焦点が当たっています。店頭販売やサービスの顧客への提案力強化であったり、通販で届いた荷物を開けた時に顧客が「遭遇する」荷姿の巧拙であったり、「顧客接点」の出来・不出来がリピート客となるのか否かを決定するというわけです。

 流通業やサービス業を含む第3次産業(既にGDP比・就業人口比ともに約7割を占める)は、製造業のようなオフショア(海外)への移転が難しく、日本国内における激しい競争にさらされています。

 成熟化した日本市場における不確実性の高い経営環境の下、人件費の変動性を確保しつつ、激しい競争環境において他社よりも質の高い付加価値の提供が求められています。その結果として、企業側から見ると、顧客接点での非正規社員の事業戦略上の重要性が増して、人材ニーズの高度化につながってくる、ということになる訳です。

 一方、人材面からみると、非正規社員層は年々増加し、今や就労人口の4割を占めるに至りましたが、その人的資本としての質は劣化が進んでいるのではないかと疑われています。その背景には、一度、非正規社員となると、企業側からの積極的な人材投資を受けにくくなってしまい、経済的な事情から「自己投資」の金額も小さいものになってしまわざるを得ないという状況があるようです。もちろん、これらを補完する公的な人材投資支援は極めて限定的です。このようなことから、戦略的には重要な、成果の出せる非正規社員の確保は、ますます困難になりつつあるといっても過言ではないでしょう。

 加えて、今年から労働契約法が改正され、今後は契約更新が5年を超えた「非正規社員」(期間の定めのある雇用契約)の「正社員」(期間の定めのない契約)への転換に向けた仕組みへの対応が求められています。

 以上のように、顧客接点における戦略的重要性の増大と人材ニーズの高度化、優良人材確保の困難性やコンプライアンス上の制約条件など、経営環境構造の変化は、高い確率でThe War for ‘ Worker '(優良非正規社員の獲得・開発競争)時代の到来を示唆していると考えています。

 もし次の3つのチェックポイントに疑問がありそうな場合は、ぜひ、The War for ‘ Worker ' に備えるためのプランニングの開始をお勧めします。

 1.正社員になれる優秀候補を引き付ける、魅力的で一貫したキャリアパスが見えているか

 2.高い成果の発揮が持続的に期待できる非正規社員をキャリア・ステージ毎に明確な基準で選別しているか

 3.キャリア開発を促す報酬体系とコントロール可能な人件費ファンドの両立を目指した人事制度となっているか

 優良非正規社員の獲得・開発競争に後れを取り、「後の祭り」になっていまわないように、現在の非正規社員〜正社員に至る人事諸制度や人材開発メカニズムを今一度検証し、来たるべき The War for ‘ Worker ' 時代に先手を打てる体制作りを始めてみてはいかがでしょうか。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)人材開発プロセス・チェーン

ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 先週一週間の経済紙をながめるだけでも、「ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)」が様々な産業で求められていることが分かります。
 お馴染みの情報システム業界から始まり、医師の開業支援と不動産開発を結び付けて医療モールを進める薬局チェーン、地域中堅企業の潜在ニーズを掘り起こす地銀、海外インフラ獲得のためのコンサルタント機能を強化する総合電機業界、物流アウトソーシング事業、あるいは高級コスメティックの対面販売のようなB2Cにまで、BSP人材の開発が求められているようです。

 今回は、「ではBSP人材開発の要諦は何か?」という核心を突いたご質問にお答えしたいと思います。

 チョットその前に、今一度、経営戦略上、今までのような「ソリューション営業」ではなく、新しい「ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)」開発がなぜ求められているのか、その重要性について整理してみたいと思います。

 ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)開発の戦略的要請はおおよそ次の2つ、現場における差異化戦略と持続的競争優位の2つの強化に、集約されます。

 1.現場における差異化戦略の充実
   ・広くB2Bマーケットにおける成熟化が進展し、事業戦略による差異化や商品の差異化が打ち出しにくくなっている。
    そのため、営業現場における巧拙が短期的なパフォーマンスの良し悪しに大きな影響を与えている。

 2.持続的競争優位性の向上
   ・ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)開発には、時間と投資が必要となる。このため、ひとたびBSP人材開発
    パイプラインを構築すると、B2Bの模倣困難性が高まり、中長期的に持続的競争優位性が高まることになる。

 それでは、このように戦略的優先度の高いビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)人材開発を効率的に進めるためのアプローチ、その要諦はどのようなものでしょうか。

 ズバリ、「BSP人材開発プロセス・チェーン」を連鎖せることです。

 数年間かかるBSP人材開発パイプライン構築について、多くの企業は、その「人材開発プロセス・チェーン」を連結させていないために失敗している訳です。

 営業現場における差異化と持続的競争優位の強化を実現するBSP機能を整理し、
  ↓
 BSP機能を人材要件化したBSP人材モデル(人材像)を定義することで、
  ↓
 キャリア開発を考慮したBSP人材候補の最適なチームビルディングを行い、
  ↓
 周到に計画されたハンズオン(実践的)トレーニング( OJT + Off-JT )を継続化し、
  ↓
 BSP人材へ適切な基準に基づくパフォーマンス評価と処遇を与え、
  ↓
 BSPのハイパフォーマーをタイムリーに昇格や登用させることで、輩出スピードを上げる。

 上のような人材モデル定義→チームビルディング→ハンズオン→評価→人材排出までのプロセス・チェーン、BSP人材開発プロセス・チェーンが、多くの企業ではバラバラに連関の弱い形で実施しているのが現状でしょう。

 求められる人材モデルが不明確であれば、チームビルディングの成功確率は大幅に下がるでしょう。持続的競争優位性、特にその企業が持つ独自性のある強みを強化するために周到に準備された実践的トレーニングとパフォーマンス評価と処遇の連動がなければ、社員に努力の方向性を提示することはできません。このような人材開発プロセス・チェーンの断絶や不整合を補修し、改善することが最も重要なこととなるのです。

 優先度の高い2つの事業戦略チャレンジ、現場における差異化戦略の充実と持続的競争優位の強化を進める「ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)」開発の要諦は、「BSP人材開発プロセス・チェーン」を有機的に連鎖させることなのです。

 皆さんの企業では人材開発プロセス・チェーンは有機的に連鎖していますか。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ ソリューション営業からビジネス・ソリューション・プロフェッショナルへ

ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 「ソリューション営業は終わった」(The End of Solution Sales HRB 2012年7-8月号、日本語訳Diamond HBR2012年12月号)。

 このショッキングなタイトルの論文の要旨は、顧客が認識する問題を解決するために、高度な製品・サービスの組合せを提案してきたソリューション・セールスが、顧客の能力アップの結果、つまり顧客も問題解決のための術(ソリューション)を学習してきた結果、営業としての価値を失いつつある。ソリューション・セールスを標榜してきたITC、ハイテク、BPO、金融、不動産、エネルギー等幅広い業界の企業の多くが、価格競争に巻き込まれており、営業のグレードアップが必要だ。これは意見ではなく、事実(1,400社の調査結果)だ、というのです。まさに今、ソリューション営業の「次」=”異次元の”「ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル」が求められている所以です。

 ソリューション・セールスからビジネス・ソリューション・プロフェッショナルへ。私たちの提唱する「ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル」とは一体どこが”異次元”なのでしょうか。

 通常、標準的ソリューション・セールスでは、以下のような4ステップをたどります。

 1.準備段階
   ・人脈の確認程度の事前アクションはあっても、顧客にとって価値のある行動はとられることは少ない。
 2.顧客課題の把握
   ・既に顧客の課題認識は明確で、RFP等で提示されるケースが多く、予算も決まっていることが多い。
    「御用聞き」と呼ばれてしまうことも少なくない。
 3.顧客課題の解決策提示
   ・自社製品中心のソリューション提示が基本であり、他社との比較が容易であることが普通である。
 4.解決策実行のフォローアップ
   ・自社とセールス・アライアンスを中心としたリソースによってのみのソリューションが通例である。

 以上のようなソリューション・セールスでは、顧客が切り出した課題に対し、顧客が想定する範囲内のソリューションを他社との差異化が少ない中で提供することになり、まさに「コモディティ化」の最たるもので、価格競争に巻き込まれてもしかたありません。

 この「コモディティ化」を乗り越えるためには、ソリューション・セールスから、顧客の持つ本質的課題を解決に導くビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)への大転換が求められてくるのです。

 ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)は、先ほどの4つのソリューション・ステップ全てにおいて、その行動原理が異なります。(下図参照)



 BSPの第1ステップ、準備段階においては、前回までのコラム議論してきた「ビジネス・ロジック」を使って、顧客企業の事業環境の変化と戦略課題を大づかみに構造化し、顧客企業の経営者=部門長=担当の問題意識を可能な限り仮説化します。

 次に、顧客からの具体的な依頼事項と準備段階での事業課題の仮説とを接合し、顧客企業の固有の課題構造を整理するプロセスを通じて、顧客も気づかない潜在ニーズに迫ります。この潜在ニーズを顧客と握ることができれば、失注のリスクが非常に小さくなるだけでなく、顧客と長期的に良好な関係を築く確率が高まります。

 もちろん、実際のソリューションも、顧客の事業課題を解決するための最善の策を自社製品にこだわらずに包括的に提供し、自社のみならず社内外のリソースを活用することで、常に顧客の課題の解決に集中するように提案、実行のフォローアップに努める必要があります。

 あたかも顧客企業に寄り添う、顧客のエージェント(代理人)のように、です。

 ソリューション営業からビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)への大転換。付加価値は非常に大きいことは見込めますが、実現するのはなかなか容易ではありません。

 ITC業界では、かつての「箱売り」や「人工(にんく)売り」が価値を失い、「ソリューション売り」へと、そして今後はソリューション売りが「ビジネス・ソリューション売り」へと変化を遂げることになるでしょう。

 電機業界の事例によれば、「単品売り」から「家まるごと、ビルまるごと、街まるごと」の「ソリューション売り」へと、ITC業界と同様の文脈で、「生き残り」戦略が図られています。

 私どもが身を置く、組織・人事コンサルティング業界では、既に報酬データやツールの「単品売り」から人事制度等の「ソリューション売り」の時代は終わり、人事制度や人材開発を包含する「合せ技の組織変革」、顧客企業の事業戦略を後押しする「組織開発」へとシフトが起こってしまいました。

 ビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)営業組織を作るのは、現状の営業組織のレベルを想定すると、非常に難しいのではないか。コンサルティングの現場では、そんな疑問の声を何度も耳にしました。

 しかし今、確かに言えることは、「箱売り」から「ソリューション売り」へ転換ができなかった企業や営業がそうであったように、「ビジネス・ソリューション売り」のできない企業と営業は、これからも過酷な価格競争と果てしない消耗戦に巻き込まれ続ける蓋然性が高くなるということです。

 難しいから、時間が掛かるから、といって「投資」を怠るのか、難しいからこそ他社が追随できない競争優位を実現するのか、
5年後の未来を選ぶのは、Up to you、今の、あなた次第なのです。

 今年3月のコラムで扱ったB2B営業について、ご意見、ご質問をお寄せいただいた皆さん、ご参考になりましたでしょうか。

 あの短い雑文に敏感に反応された皆さんこそ、明日のビジネス・ソリューション・プロフェッショナル(BSP)になれる、あるいは既になっている、と確信しています。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ いつやるか? 今でしょ! → 何からやるか? 今の自己認識でしょ!!

ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 今まで「ビジネス・ロジック」の重要性をシツコク強調してきましたので、「いつやるか?今でしょ!」モードになっていただけたかと思います。そこで次のステップは、グローバルにも、ドメドメにも、出世にも、通用する、プロフェッショナルの基礎要件「ビジネス・ロジック」開発の、「何からやるか?」です。

 ロジカル・シンキング、事業戦略やマネジメント論のお勉強・・・いえいえ・・・

 今の自己認識でしょ!!

 意外感があるかもしれませんが、ビジネス・ロジックの開発で成功の確率を高めたいのであれば、やはり「正しい自己認識」が不可欠なのです。

 現在のビジネス・ロジック能力のレベルについて正しい自己認識を持たないと、言わば発射台の高さも間違えますし、能力開発の目標に至るプロセスも間違えざるを得なくなるわけです。「当たり前だよ」と言われそうですが、実は正しい自己認識の重要性には、もう少し深い事情があるのです。

 人には「自分は平均より2割程度優れている」という思い込み(優越の錯覚)がある、心理学の領域では有名ですが、生物学的メカニズムとして証明されたようです。
(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130226/#YOUGO4)

 自分は他人より優れていると思っているわけですから、自分のビジネス・ロジック能力の現状を高めに見積る傾向がありえます。また、これから開発すべき能力レベルの目標も、きっと高めに設定するはずです。このままでは、ビジネス・ロジック開発の成功確率を下げてしまいます。

 加えて、行動経済学の知見からも、悪い知らせがあります。2008年本コラム「近眼の経営者へのアドバイス」でご紹介した通り、「時間選好」があるからです。時間選好とは、将来の利得より直近の利得の方がより過大に見える傾向のことで、将来のスリムなボディを目標に固い決意でダイエットに取り組もうとしても、目の前の美味しいケーキの誘惑に負けてしまう(昨日は焼き肉を食べすぎてしまいました・・・)などが典型的な事例です。

 「いつやるか?今でしょ!」と固い決意で自分を信じ、成功を信じて努力を始めてみても、将来の高い目標を実現するトレーニングよりは、どちらかというと「楽な道」を選んでしまい、日が経つにつれ、目標が大それたものとして見え、達成不可能なものと感じ、諦めてしまう、実はそんな自分が本当の自分なのかもしれません。
(受験生時代の自分自身を思い出してしまいます・・・)

 つまり、人には「優越の錯覚」と「時間選好」のために、「正しい自己認識」が持てず、大きな目標を達成できない蓋然性があるのです。

 では、自らを成功に導く、正しい自己認識のためには・・・私が実践している2つの有力な方法をご紹介します。

 (1) たくさんコストを払って、定期的に、他者からのフィードバックを受ける
     ビジネスを理解している先達や同僚、顧客、などから「耳の痛い」話を、コストを払って傾聴する。コストを払う
     =投資。投資をすると「モッタイナイ」と思うので既に払ったコストにこだわってしまう、行動経済学の「埋没費用
     効果」が期待できます。効果は時間の経過とともに償却するので「定期的」も重要です。外部コンサルタントの
     活用が最も有効かもしれません(笑)

 (2) 一日一回は、自己認識を2割引き下げる、謙虚な時間を持つ
     継続は非常に難しいですが・・・

  「いつやるか?今でしょ!」
  「何からやるか?今の自己認識でしょ!!」

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ ドメドメでも意外な効用…一石「三鳥」

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 「ビジネス・ロジック」は分かったが、「わが社はドメドメ(ドメスティックな事業)でグローバルにも対応できるといってもピンとこないのですが…」。またもやお叱り(励まし?!)のメールをいただきました。

 もしあなたのビジネスがドメドメでも、B2B(顧客が企業のビジネス)であれば、「ビジネス・ロジック」の意外な効用が期待できるかもしれません。

 B2Bの持続的にハイパフォーマンスを上げているいくつかの営業事例を見てみましょう。

 A社は顧客企業の設備投資に使われる資本財を製造・販売しているトップ企業です。毎年高成績を上げてきたO営業部長に、そのコツをうかがうと…

   …我々の製品は顧客企業の設備投資に使われる訳ですから、顧客企業の設備投資の中身や規模感を予測し、
   わが社の製品開発や提案のターゲティングを正確に行う必要があります。要は顧客企業の投資戦略の正確な
   予測ですね、そして、そのためにはまず、顧客企業の顧客企業、「顧客の顧客」の動きを見通す必要があるわけ
   です…

 B社はパッケージソフトを中心とする大手SIer(情報システム会社)で、その中でも成長著しい製品群の営業を担当するTマネジャーは…

   …システム機能的には競合他社との差異化は打ち出しにくいので、他社には真似のできないきめ細かい運用設
   計や運用サポート、いわゆるシステム開発の「下流」部分をセールスポイントにしています…もちろんそれだけで
   はプロジェクト獲得は難しいですね。やはり、顧客企業の経営課題の解決が求められるシステム戦略立案/シス
   テム化構想フェーズ=システム開発の「上流」に何らかの「フック」がかかっている時が一番受注確度が上がります
   ね…

組織・人事コンサルティング・ファームH社の大黒柱である取締役Lさんの場合は…
 
   …もちろん、まずは、クライアントが要求する当初のテーマに正確に応えるように心がけています。人事制度を改
   訂したいとか、マネジャー研修とか…一番受注に手ごたえを感じる時は、クライアント企業の経営環境=事業戦略
   =人事戦略の連関の中に依頼されたテーマがハッキリと位置付けられた時です。ですから、初めから、「有報」の
   経営課題(「今後の課題」部)やHPの採用コーナー等少ない情報から、経営環境=事業戦略=人事戦略=依頼
   テーマの仮説を立て始めますよ…

 いずれのケースでも、

1. 顧客企業の経営環境変化の正確な理解
2.顧客企業の事業戦略や付随する戦略の現状把握
A.1・2を基に、顧客企業の変化の今後の方向性の予測

 の3つ、前回提示した「ビジネス・ロジック」のチェックポイント、「自社」の部分を「顧客企業」に置き換えてみるだけで、B2B営業のKSF(主要成功要因)となっているようです。高いビジネス・ロジック能力は、高い営業パフォーマンスにもつながりそうですね。

 ひるがえって、再び「顧客企業」の部分を「自社」に、元に戻してみると、その方は自社の中長期的に変わらない自社の経営構造に沿ってビジネス行動の取れる人でもあり、きっと出世の速いビジネス・プロフェッショナルであるはずです。

 いかがでしょうか。
         ..      ..     ..
 グローバルにも、ドメドメにも、出世にも、通用する「ビジネス・ロジック」、トレーニングを強化する気になりましたでしょうか。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ ビジネス・ロジックのための「三本の矢」

  ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 グローバルにも対応できる基礎能力である「自分のビジネス・ロジック・レベルは十分だ」と胸を張って言えるほどの確たる自信はない、そもそも何をもって十分と言えるのか、その基準や目安が分からない、これが私の周りのおおかたの声でした。
 そこで今回は、皆さんのビジネス・ロジック・レベルの特徴を自己判定するためのいくつかの質問を用意しました。どうぞ、セルフチェックをしてみてください。

 まずは簡単な3つの質問から、気楽にYes or Noで答えてみてください。

 1. 自社や事業部のビジネス環境の変化を部外者にも分かるように説明できますか。
 2. 同様に、そのビジネス戦略の現状を部外者にも分かるように説明できますか。
 3. さらに、自分の部門の今の部門方針を部外者にも分かるように説明できますか。

 「まあ、できるかな」であれば、Yesでしょうね。

 それでは、次の2つの質問はいかがでしょうか。やはりYes or Noの二択でどうぞ。

 A. 今後数年間、中長期的に変わらない、自社や事業部のビジネス戦略を予測できますか。
 B. 同様に、中長期的に変わらない、自部門の部門方針を予測できそうでしょうか。

 「将来のことは分からない」との声が聞こえそうですが、その場合はNoでしょうね。過去にさかのぼって、昨年や数年前に予測ができていればYesでしょうか。「覚えていない」や「予測していない」などの場合はNoでしょうね。あまり細かいことは気にせずに、Yes or Noを決めてみてください。

 Yes or No、結果はいかがでしたか。

 もし質問1・2ともYesであれば、質問AがYesである確率は高いかもしれません。ビジネス戦略の現状とビジネス環境の変化の方向性を骨太に説明できるとすれば、中長期的にもブレナイ戦略やビジネスモデルをしっかりした「ビジネス・ロジック」として説明できるはずです。下位者にとっては、きっと頼もしいビジョナリー・リーダーの一人となっているのではないしょうか。
 
 あるいは質問1・2に一つでもNoがあった場合どうでしょうか。たぶん、質問AがNoとなっても不思議ではありません。「ビジネス・ロジック」の強化を意識しつつも、事業環境や事業戦略そのものの深い本質的な理解により多くの時間を割くことが望ましいのかもしれません。

 質問Bについても、質問2・3と組合せて、質問Aの場合と同様に考えてみてください。すぐに、ご理解できるはずです。
 
 それでは仮に、上のようなケースにならなかった場合はどう考えればよいのでしょうか。かなりの確率で、ご自身の「ビジネス・ロジック」能力のセルフイメージに修正が必要だと思われます。

 例えば質問1・2ともにYesなのに、質問AがNoという場合、つまり環境変化や戦略の現状は説明できても将来もブレナイ戦略を描けないような場合や、その反対に、質問1・2に一つでもNoがあるのに質問AがYesとなっている場合は、「ビジネス・ロジック」の自己認識に偏り(過小評価や「自信過剰」)があるかもしれませんから要注意です。

 そして、最後にあと二つ質問です。

 α. 常に、事業環境〜戦略〜部門を連関させたビジネス・ロジックを心掛けていますか。
 β. 自身のビジネス・ロジック能力のセルフイメージは正しいものとなっていますか。

 グローバルに通じるプロフェッショナルの基礎要件の一つ「ビジネス・ロジック」は、その能力(質問1〜B)の有無に加え、不断のビジネス・ロジックの自己研鑽(質問α)と正しい自己認識(質問β)の「三本の矢」が揃ってこそ、高度に開発されていくと考えますが、いかがでしょうか。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2013

■ グローバルにも通用する「明日のためのその1」−ビジネス・ロジック

 謹賀新年

 ニューズレターご愛読者の皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 先月、久しぶりに懇意のクライアントとの忘年会の席で「何でニューズレター止めちゃったの?」との「お叱り」を受けました。「硬い文体で読むのは億劫だが、なるほどと思うこともあるから、続けて欲しい」とのご意見でした。別の親しい大先輩からも「始めたことはチャンと続けないとね。信頼がね・・・」との厳しい指摘。忙しさにかまけて、情報発信をサボっていたことを心から反省し、新年よりニューズレターをお送りします。

 今年も、何卒、よろしくお願いします。

 ここのところ、クライアントの皆さんの「グローバル人材」についての関心が非常に高まっています。曰く「グローバル人材が足りなくて・・・」「僕もグローバルに活躍できるようにならないとな〜」。グローバル化の波があちらこちらに迫ってきているようです。

 そこで今日は、日本のビジネス・プロフェッショナルが忘れがちなグローバルにも通用する「明日のためのその1」から考えてみようと思います。日本にいても、グローバルでも対応できる大切な能力、それは「ビジネス・ロジック」です。

 グローバル人材とは、言わば、国内・国外を問わずグローバル環境でも活躍できる人材のことですが、その要件には様々な意見があるようです。「英語ができる人」「相手国や社会を知る人」「異文化コミュニケーション経験者」「ダイバーシティのマネジメントだ」・・・論者によって多様で、もちろん、どれも正解だと思います。

 実際、「XX人とのビジネスを成功させる方法」とか「リアルなインド・ビジネス体験」とかいうセミナーやトレーニングでは、相手を知ることや異文化性が強調されています。参加者からも、「ベトナムの常識ではどうなんでしょうか?」、「中国人はなぜそういう行動を取るのでしょうか?」などの質問が多く出されます。つまり、このような考え方の特徴は、相手との「異質性」を前提に、その距離をどう縮めるかというアプローチと言えるでしょう。

 これに対し、「ビジネス・ロジック」アプローチとは、他者との「同質性」の可能性を信じたものと言えます。平たく言えば、「理屈で相手を説得する」ということです。ロジック=論理は古代ギリシャからの全人類の共有財産ですので、極めて当たり前なことのようですが、意外とできていないことのようにも思えます。

 「ビジネス目標を各人の利益と一致させ、ともに共有し、それに向けての道筋を描き出し、自らもその方針に従いながら行動しつつ、「常識」を共有しない多様な他者をも説得し、動員できる」強いロジックを構築・コミュニケーションする能力ですから、なかなかのレベルではないでしょうか。

 数千名以上のビジネス・プロフェッショナルにお会いしてきた経験則に照らしてみても、事業環境や事業戦略、自部門のミッション、立ち向かうべき戦略課題を、「外部の私」に、分かりやすく体系的にストーリーとして提示し、「なるほど!」と思わせた方は、ごく少数であったような気がします。日本語で説得できないのですから、英語では・・・その結果は推して知るべしでしょう。

 また経営の観点から言い換えると、「暗黙知」によるマネジメントの部分を小さくし、「明白知・言語知」によるマネジメントを強めるということになるのでしょうか。例えば、伝統的な日本企業などで行われている暗黙知によるマネジメントは、国内でのコミュニケーション・コストを最小化するという効果がある反面、異質性の高いグローバル経営には不向きということなのかもしれません。

 日本でもグローバルでも通用するビジネス・プロフェッショナルの「明日のためのその1」、それは個人の立場から見ると「ビジネス・ロジック」であり、経営の観点からは「明白知・言語知化」マネジメントなのです。

 ところで、もちろんグローバルに活躍しようと思えば、英語などの語学力も必須ですね・・・誤解なきように。ちなみに、かくいう私も錆び付いている英語と韓国語に「焼き」を入れ直しています。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2009

■ 「近眼の経営者」へのアドバイス


 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 不況期には、Human Capital Investment(人的資本開発投資)の一時的な削減は不可避だ。短期的な財務的要請が最優先課題となるからだ。

 しかし、その削減規模の意思決定には、より慎重な検討が求められる。人材投資に関する経営者の意思決定には常に、オーバーシュート気味の過大な削減となるリスクがあるからだ。
 短期的な業績と中長期的な成長への目配りのバランスの困難性がここにも現れているのである。

 不況期に人的資本開発投資の削減がオーバーシュートし、過大となる傾向は、行動経済学の「時間選好」の概念から説明することができる。

 経営者に限らず、あらゆる個人は、意思決定の時点と損失や利得を得る時点が時間的に離れている場合、近視眼的な意思決定に陥りやすいようだ。

 例えば、将来のスリムなボディを目標に固い決意でダイエットに取り組もうとしても、目の前の美味しいケーキの誘惑に負けてしまったり、健康のために元旦に禁煙を誓っても、気が付いたらフーと一服、となってしまったりする。
 子供の頃を思い返せば、夏休みの宿題(=2学期の成績)よりプール遊び、若い頃は、老後の貯金(=老後の消費)より今日のレジャー、将来の利得より直近の利得の方がより過大に見える傾向があるのである。

 異時点間の選択は、本来あるべき合理的な判断と比べて、ずっと「近眼」なのだというのが行動経済学の教えるところである。

 同様に、経営者にとって、Human Capital Investmentによって中長期的に期待される効果より、今年の削減効果による利益確保の方が、より魅力的に映ったとしても頷ける。
 かくして、「近眼の経営者」は人的投資をオーバーシュート気味に過大に削減することとなる。

 不況期には不要不急の投資は、優先順位をつけて削減しなければならない。
 しかし同時に、削減額の意思決定はオーバーシュートする傾向があるということを認識した上で、本来の合理的な判断を行うことが求められる。当初の想定より少な目の削減が、妥当額なのかも知れない。

 そして賢い「近眼の経営者」は、既に社内外の信頼する第3者的アドバイザーという「メガネ」をかけている。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2009

■ 不況期の Human Capital Investment アナロジー


 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 個々の企業においても、日本経済全体においても、人材投資は、より重要な役割を果たしつつあるようだ。

 昨年末、テレビ東京の経済ニュース番組ワールドビジネスサテライトでの日本経済研究センター理事長深尾光洋慶大教授の経済政策提案はその好例だ。

 2百万人規模の失業が予想される中、失業者が将来正社員として働くまでの「コーチングと失業給付と職業訓練」をセットにした人的資本形成への投資に数兆円規模の財政出動をすべきというのがその趣旨である。失業状態を最小限に止めると同時に、失業給付の大半は消費として、職業訓練費用等はサービス生産として、GDPの底上げに即効性も期待できるという。

 これは、短期的な失業対策や景気対策と、中長期の持続的成長を可能にする人的資本形成の3つを同時に実現しようとする意欲的な提案と評価できよう。
 確かに失業や景気対策として魅力的な提案であり、できる限り早期の実施が望まれる。

 加えて、人的資本形成の側面に関しては、その効果性を高めるために、いくつかの条件を整える必要があるのではないだろうか。
 例えば、職業訓練に関しては、
  @ 将来の求人職種とのミスマッチを可能な限り防ぐ職業訓練メニューの提供
  A 講師やリーダーのレベルアップによるより実践的な職業訓練の内容の向上
  B バウチャー制などより柔軟で効率的な訓練選択メカニズムの導入
などの工夫の余地があろう。
 いくら景気対策といっても、10年前に実施された教育訓練給付金のようなキャリア形成に役立たない「何でもあり」の無駄金のようなものには決してなってはならないのである。

 ひるがえって、皆さんの会社のHuman Capital Investment(人材開発投資)やトレーニング(OJTとOff-JT)は、いかがであろうか。短期的な業績と中長期的な成長への目配りのバランスは、いかがであろうか。

 公的職業訓練との比較でいえば、例えば、
  @ 将来必要となる人材像とのマッチングを図るトレーニング・メニューの導入
  A リーダー層のレベルアップによる実践的なトレーニングの質的向上
  B 社員のモチベーションを高める、より柔軟で効率的なトレーニング・体系の導入
などの人材開発戦略上の工夫が施されているだろうか。

 もしかすると、より効果性と効率性の高い人材開発投資を実現する戦略が求められているのは、数兆円規模の財政出動の検討が可能な政府の経済政策よりも、不確実性の増大と人件費の絞込みが予想される中、ナローパスを歩まざるを得ない企業の経営施策の方だと言えなくもない。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2008

■ 野村のリーマン部門買収の意味


 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 9月15日のリーマン・ブラザース経営破綻以来、世界経済に暗雲が垂れ込めている。エコノミストの指摘通り、欧米諸国の公的資金注入が可能となり、グローバル金融システムが立ち直ったとしても、今後数年間にわたる不安定な金融動向と経済減速という厳しい企業環境が継続しそうだ。
 このような情勢下、リーマンのアジア・太平洋部門と欧州・中東部門を手中に収めた野村ホールディングスが、今週より業務を再開する見通しである。多くの金融専門家はこのリーマン買収について、優秀人財の流出リスクと組織統合の難しさを理由に厳しい見方をしているようだ。彼らの見方には一理あるといえるが、野村とは利害関係の全くない   ” Human Capitalist “(人財専門家)としてはむしろ、その「スピードある実行力」と「果敢な人財投資」にも着目する。

 「スピードある実行力」、リーマン破綻から1か月で業務再開にこぎつけようとしている野村のリーダーシップがこれを如実に証明しているといえる。加えて注目すべきは、野村に移籍する総勢6〜7千名の旧リーマン社員が、これに呼応してビジネスのリスタートを図るべく日夜努力を続けているであろうことではないだろうか。浮き足立つ欧米のコンペティターたちをしり目に、彼らは「自分の飯の種は自分で稼ぐ」ことが宿命付けられており、既存顧客の再獲得という目標に向けた共通の組織行動「バネ」が働くかもしれない。野村のリーダーシップと旧リーマン社員の「バネ」の共同体験による相乗効果が実現すれば、野村には比較的早期に人財と組織ネットワーク資産が転がり込むことも十分ありえる話だ。これが、第1の着眼点である。
 
 しかし問題はその後だ、といわれている。
金融専門家の指摘通り、人財流出と組織文化統合のリスクへの対応を誤ると、今回の部門買収で野村は大きな痛手を被るかもしれない。もちろん野村首脳陣もこの点については認識しており、早速、複数の非日本人を登用する「執行役員制度」等、ガバナンスの変更を実施している。野村が日本発の数少ないグローバル企業へと脱皮することができるのかが、現実の組織の中で問われ始めたのである。

 人財・組織リスクの帰趨についての予想はひとまず置くとして、私たち” Human Capitalist “は、何故ことさらこの意思決定に着眼しようとするのか。

 それは、第2の着眼点、人財・組織リスクが存在しても、持続的成長のためには「果敢な人財投資」が必要である、という冷厳なる事実を見て取ることができるからである。
 野村の場合は、欧州・アジアでの成長やネットワークなくして、グループの中長期的成長が見込めないとの判断があったのであろう。そしてそのためには、たとえ人財・組織リスクが大きくとも、年数百億円にも及ぶ人件費という「果敢な人財投資」がどうしても必要だと考えたのである。

 このような緊急事態のケースと日常の経営とは違う、と考える向きもあろうが、実は如何なる時にあっても、企業の持続的成長には人財投資が不可欠なのである。短期業績が下がれば、必要な人員さえ絞り込む、戦略的な教育投資さえも減額する、このような状況が断続的に続いているようでは持続可能性に疑問符が付かざるを得ないのである。

 現下の激動の金融情勢を見ると、確かに野村の先行きについて予断は許されないかもしれない。しかし、このケースは、多くの持続的成長を目指す企業にとって、コストやリスクをとった人財投資が必要なのだという、当り前の原則を改めて気付かせてくれる契機となるのかもしれない。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2008

■ ハイパフォーマー・ジェネレーターの開発


  クライアントの皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 持続的成長を望むトップ・マネジメントは、短期と中長期の業績を左右するハイパフォーマー・ジェネレーター(HPG)とその候補者たちを再発見する困難な作業から開始しなければならない。次に、彼らに直接働きかける「自覚化」と組織システムの整備「仕組化」を積極的に促進する必要がある。非常に時間のかかるプロセスのように見えるが、実は、HPGの発見とHPGの「自覚化」を同時に促す妙案があるのである。

 トップ・マネジメントにとって、HPGの発見は極めて難しい。
 短期的な高業績を残すハイパフォーマー(HP)に目を奪われやすいためだけではなく、HPGが複雑な組織階層の中に埋め込まれていて見えにくくなっているためである。その上、HPGたちの多くは、他者に対しても自己に対しても高い目標と厳しい評価目線を持っているため、自らが有能なHPGであるという自覚に乏しい場合が多いからだ。

 発見のための簡便法として、マルチ・ソース・フィードバック(多面評価)のアップワード・フィードバック、つまり「下からの評価」の活用、下位者が思うHPGを探索する方法がある。しかし、この手法だけでは下位者に対し非常に高いハードル(目標)が設定されている場合などはHPGへの評価が低くなる傾向があり機能しないリスクが高い。人財開発サポート情報システムを導入している先進企業においては、過去の下位者たちの成長度合いとHPGとの相関関係を分析し、これと組み合わせるという手法も考えられるが、そのようなデータベースを持ち合わせている企業の数は少ないのが現状である。

 そこで、我々がよく推奨するのは、ミドル・マネジャ層に幅広く網をかけたトレーニングを施し、このトレーニング・プロセスを通じてHPGを焙り出す方法論である。「リーダーシップ源泉強化アクション・ラーニング・トレーニング」を広範囲のミドル・マネジャ層に実施すると、半年を待たずに、HPGが焙り出されてくるのである。

 このトレーニングでは、リーダーシップの源泉を強化するためのプロラムが用意されている。自分のリーダーシップ源泉を振り返り、その妥当性を検証した上で、現場でのアクションプランを実行していくプロセスを実地にサポートする。形式としては、集合研修とグループ・個別フォローアップ研修の組み合わせを行うこととなる。(プログラム内容の詳細は別の機会に紹介したい)



 自らがHPGであれば、このプロセスは極めて順調に短期間でワン・サイクルを終了する。なぜなら、多くの場合、彼らHPGが無意識のうちに既に行っている行動様式だからである。結果として、HPGが焙り出されてくるのである。

 加えて、副次的効果も期待できる。
 HPG候補でないミドル層にも若干の行動変革が見られることもあるが、それ以上に、トップの考えるHPG像を共有することで、HPGへのレコグニッション(認知と評価)を高め、組織文化の改善やあるべきバリュー(価値観)の浸透につながる効果が望める。
 
さらには、このプログラムの実施によってHPGの「自覚化」を促し、HPGのパフォーマンスの効率性を高める効果も期待できるという意味では、まさに「一石三鳥」の妙案ということになるのである。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2008

■ ハイパフォーマー・ジェネレーターのリーダーシップの源泉


  クライアントの皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

「ハイパフォーマー・ジェネレーター」(高業績者を生み出す者)は、「リーダーシップの源泉」を精力的に蓄積している。これが我々の考える新しいリーダーシップ論の核心だ。

 先日のコラム(5月20日付参照)では、ハイパフォーマー・ジェネレーターの事例をコンサルタント、銀行支店長、営業マネジャー、技術者等を紹介しながら、組織の持続的成長を望むトップ・マネジメントは、短期的なチーム業績と中長期の業績を左右する人材開発を同時に成し遂げるハイパフォーマー・ジェネレーターを再発見する必要があることを述べた。

 彼らのリーダーシップ発揮の仕方は様々である。「舌禍事件」を起こすクセのあるリーダー、どこから見ても優しく辛抱強いリーダー、常にクールな面持ちのリーダーやトップダウン・スタイル、ボトムアップのスタイルなどなど、実に多様なリーダーシップ・スタイルである。なかなか、共通点を見出すことが困難なようだ。

 しかし、1点だけ共通点がある。
 とても豊かで強力な「リーダーシップの源泉」を持っていることである。
 
 リーダーシップを生み出すパワーの源泉は、@正当性・公式A報酬(処罰)B専門性C準拠D社会的交換の5つがある。(『「ヤンクミ」のリーダーシップの源泉』4月27日付参照)
特に彼らが重視しているのが、「専門性」と「社会的交換」である。

 専門性によるパワーの源泉は、プロフェッショナル的な職責を十全に果たすようなリーダーを想像してほしい。困った時は、誰でも話しを聞きたくなるはずだ。
他方「社会的交換」によるパワーの源泉は、資源を市場原理でない方法で、個人間で繰り返し交換する際に生じる不平等を起源とする。恩を受ければ、返したくなるのが人情なのだ。
 
 それでは、社会的交換によるパワーの源泉はどのように開発されるのだろうか。
 そのポイントは、キャリア・ビジョンとミッション(およびオペレーション)と評価(フィードバック)とを三位一体的にコントロールすることだ。



 まず、下位者のキャリア・ビジョンとそのミッションを徹底的に擦り合わせ、誠実かつ十分な合意を取る。当然、合意までのプロセスは数ヶ月を要することが多く、フロントローディング型の時間「投資」をともなう。それに、本人希望と会社からの要請の擦り合わせだから、相互の妥当な修正と高度なコミュニケーションも必要となる。
 次に、日常のオペレーションを通じて、細かいアドバイスとフィードバックを行い続ける。その際、キャリア・ビジョンとの関連でのフィードバックが重要だ。
 最後に、定期評価。しかし、通常、評価面談にはほとんど時間がかからない。既に日常的なフィードバックで十分済まされており、合意が形成されているからである。面談の時間のほとんどは、むしろ今後のキャリアパスや業務面でのアドバイスが中心になることがしばしばだ。
 キャリア・ビジョン=ミッション(オペレーション)=評価(フィードバック)のサイクルを誠意と一貫性をもって繰り返し回しているのである。そこまでされれば、ポテンシャル下位者は高い確率で感謝と「恩返し」行動をとろうとすることになるわけである。

 要は、ハイパフォーマー・ジェネレーターは自分の時間を余計に使って(人財投資)、日々のオペレーションを指導しながら、ハイパフォーマー育成という果実を同時に得ているのである。まさに、社会的交換によるリーダーシップの源泉である。

 次回以降は、戦略的なハイパフォーマー・ジェネレーター開発手法について考えてみたい。
 
 そう言えば、『ごくせん』が最終回を迎えてしまった(涙)。仲間と家族と命を何よりも大切にする最高のハイパフォーマー・ジェネレーター=ヤンクミに感謝!(涙)


                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2008

■ 「管理監督者」問題のリスク・マネジメント


 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 今回は予定を変え、最近、複数のクライアントから問合せのある「管理監督者」問題について、「人と組織のリスク・マネジメント」の観点から検討を加えたい。
 この問題について、当局対応や人件費負担など短期的な課題に軸足を置きすぎた対処策は、将来に大きな禍根を残す可能性がある。むしろ、短期、中・長期施策のバランスの取れたリスク・マネジメント戦略が求められるのである。

 ちなみに、ここで「管理監督者」問題としているのは、人件費大幅削減のための「名ばかり管理職」や「偽装管理職」問題のことではなく、労働基準法41条「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)と企業内規定である「管理職」との解釈の齟齬によって生じる様々な問題を指すことを意識しているからである。
  (管理監督者の範囲についての解釈例規)
    昭和22年9月13日付発基17号、昭和63年9月14日付基発150号
    http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/s1024-4e.html

 「管理監督者」に該当しない者には、時間外・休日労働に対して割増賃金(いわゆる残業代)を支払わなければならない。よって、残業代が支払われていない非「管理監督者」の「管理職」には、新たに(さかのぼって?!)残業代を支払わなければならない。トップ・マネジメントが巨額の人件費負担に目を奪われてしまうのは当然かもしれない。

 しかし、この「管理監督者」問題は財務的インパクトにとどまらず、企業の中長期的成長に甚大な悪影響を与えるリスクを孕んでいる。
 管理職層に対して「時間を使って働いた方が残業代を稼げて得だ」という労働時間ベースのインセンティブを与えてしまうからである。マネジャー本来の役割は効率性や成果の追求であるのに対し、逆のインセンティブとなるわけである。ひいては、そのマネジャーがリードする組織の効率性やイノベーションが停滞しても不思議はないのである。

 つまり、トップ・マネジメントは、短期のコンプライアンスや財務のリスク(クライシス)を処置すると同時に、逆インセンティブなどの中長期的リスクをコントロールしなければならないのである。
 加えて、もし競合に対し持続的な競争優位性を築き、Good Companyを目指すのであれば、これらリスクをチャンスと捕らえ直し、弱まってしまったマネジメント機能の再強化のため、積極的なマネジャー・リーダーシップ強化戦略を推進することも視野に入れるべきであろう。

 詳述は別の機会に譲るが、最後に、下図で「管理監督者」問題がもたらす5つの主要リスクに対応しつつ、マネジャー・リーダーシップ強化戦略を基軸にした整合的な施策のフレームワークを参考例として示す。

 クライアントの皆さまが「管理監督者」問題をチャンスに、更なる質的な跳躍を果たされることを熱望してやまない。



 蛇足だが、「ホワイトカラー・エグゼンプション」や「管理監督者」問題の今後の見通しについて短く付言したい。
 これら「労務」諸問題の背景には、18世紀から続く資本主義や市場経済の進展と、それと対を成すように発展した市民権(基本的人権)ことに社会的市民権(社会権)の拡大との関係を見て取ることができよう。そして、その示唆するところは、経営側にとっても労働側にとっても、この問題の「改善」は「時間のかかる」プロセスとして認識しなければならない、ということだろう。歴史を鳥瞰すれば、資本主義の論理と基本的人権の理念という「双頭の鷲」が時には一方に、またある時には他方に、らせん状に羽ばたいているように見えるからである。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2008

■ ハイパフォーマー・ジェネレーターの再発見


 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 実は、「ヤンクミ」の亜種は、ビジネス・ワールドにもいるのである。
 個性あふれた思い思いのスタイルや表現方法でリーダーシップを発揮し、同時にハイパフォーマー(高業績者)を 次々に生み出していく。
 それが、「ハイパフォーマー・ジェネレーター」(高業績者を生み出す者)である。

 私が初めてハイパフォーマー・ジェネレーターに出会ったのは、あるプロフェッショナル・ファームでのことだ。

 彼は数十名の組織を率い、新規顧客の開拓と高いチームレベニュー目標達成が主なミッションである。彼の組織のパフォーマンスは、コンスタントに目標を達成しているが、他チームと比べダントツに高いということはない。彼のコミュニケーション・スタイルは、良く言えば’Talk Straight’、悪く言えば「舌禍事件」を起こしやすい。相手によっては「嫌われ者」になりそうなクセのあるリーダーと言えそうだ。

 しかし彼の組織の際立った特徴は、他チームへのいわば「人財供給源」となっている、ということである。彼の組織からは毎年のように厳しい基準を突破した昇格者が多数輩出されている。そしてこの昇格者たちが軒並みハイパフォーマンスを発揮し続けているのである。チーム業績と人材開発を同時に成し遂げる、換言すれば、短期の経営目標と中長期目標を両立させているのである。
 そう、彼こそがハイパフォーマー・ジェネレーターなのである。

 読者の組織を見回していただけないだろうか。数は少ないが彼らは確かにいる。もしかすると、このコラムを読み続けている、あなた自身のことであるかもしれない。

 例えば、銀行。多くのハイパフォーマー支店長は、彼の力量で高業績の連続表彰を受けることができるが、その支店長が異動すると元の木阿弥になる。ハイパフォーマー・ジェネレーター支店長は、業績は「二番手」であるが、内部昇格者を多数出したり、支店長異動があっても支店の業績が下がらなかったりする。

 例えば営業。「彼が去るとペンペン草も生えない、イナゴ」のようなハイパフォーマンス営業マネジャー。これに対し、営業目標を達成しつつも、顧客と部下を「耕し、種を蒔き、肥料を与え」続けているのがハイパフォーマー・ジェネレーター営業マネジャーである。
 もちろん、短期で財務的な成果が見えにくい技術者や管理部門の中にも、彼らはいるのである。

 事業経営において、最も難易度の高いミッションの一つが、短期業績と中長期業績の両立であろう。実はこのミッションを現場で支えているのが、彼らハイパフォーマー・ジェネレーターたちなのである。
 組織の持続的成長を望むトップ・マネジメントは、短期的な成果に集中するハイパフォーマーばかりに目を奪われず、少しでも多くのハイパフォーマー・ジェネレーターを再発見し、再評価し、再開発しなければならない。

        (ハイパフォーマー・ジェネレーターの特質や行動特性、人材開発については次回以降を予定)

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2008

■ 「ヤンクミ」のリーダーシップの源泉

 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting のLee です。

 2002年以来、高視聴率を記録する日本テレビ開局55年記念番組『ごくせん』が放映中だ。任侠集団で育った熱血高校教師が不良ぞろいの3年D組をまとめ上げていく学園ドラマだ。
(まだ視聴されていない方はこちらをどうぞ http://www.ntv.co.jp/gokusen/ )

 主人公ヤンクミさんのリーダーシップの表現方法は破天荒だ。
 クラスメートを仲間として大切にしなさいとの信念。そのために自分の時間のほとんど全てを惜しみなく使う。生徒を守るために悪と対決するときは暴力もいとわない。しかもメチャメチャ強い!

 さて、本題。
 ビジネス・ワールドではリーダーシップ論、花盛りである。リーダー資質論、状況対応型リーダーシップ、変革型リーダーシップ、平時・有事のリーダーシップ、グローバル・リーダーシップ・・・リーダーシップ・スタイルの議論は孫子の昔より尽きないようだ。実際、コンサルティングの現場でクライアントから、「リーダーシップ開発の研修を企画しているのだが、多種多様の提案がありすぎて・・・」との声を多数聞いている。
 リーダーシップ・スタイル=表現方法は、千差万別、十人十色、どのリーダーシップ研修を選択すべきか、悩むところなのかもしれない。

 そもそも、リーダーシップ開発の出発点はどこに着眼すればよいのだろうか。
 リーダーシップ・スタイルは多様であるだけでなく、適用できる環境との組み合わせも考えると、最適解を得ることは極めて困難であろう。組織の実行力が低下した(生徒が教室で好き勝手なことをする)からと言って、いつも無原則にヤンクミのリーダーシップ・スタイルを真似するわけにはいかないのだ。

 そこで我々は、まず「リーダーシップの源泉」に焦点を当てる。
 リーダーシップ・スタイルの多様性を前提として、リーダーシップを生み出すパワーの源泉を強化することから始めるべきだと考えるのである。リーダーシップの源泉が強ければ、そのスタイルに多少の齟齬があっても、組織やチームの実行力は高まるはずである。

 一般に、リーダーシップのパワーの主要な源泉は5つあるとされている。赤銅学院高校の数学教師ヤンクミさんのケースを例にとって検討を加えてみよう。

@ 「正当性・公式」

 先生=生徒の公式な関係が一つ目の源泉である。しかし不良の生徒たちには通用しそうもない。必要条件だが十分条件ではなさそうである。

A 「報酬(処罰)」

 先生は生徒に成績という報酬(または処罰?)を与えることができる。しかしこれさえも力不足であろう。

B 「専門性」

 普通、先生は生徒より専門知識が豊富であるから頼られる。ヤンクミさんはケンカの「専門性」が強いから3年D組の生徒に尊敬されるかもしれないが・・・

C 「準拠」

 ヤンクミさんがカリスマ的リーダーとして目標とし尊敬できる人間であれば、この源泉が強いと言える。首肯できる部分もあるかもしれないが、任侠世界の習慣を身に着けた彼女はどうだろうか?

D 「社会的交換」

 平たく言えば「貸し・借り」のアンバランスのことである。ヤンクミさんは仲間の大切さを分かってもらおうと、自分の時間を惜しみなく生徒のために使う。いわば、生徒に対する「投資」=「貸し」である。生徒の側から見れば「借り」=「恩」が貯まってしまうのである。この「借り」の分だけ、リーダーシップの源泉が蓄積されることになると解釈できる。通常であれば、生徒は先生を信頼し、ついて行こうと思うようになるのである。本当に美しい姿ではないだろうか。もちろん当のヤンクミさんは、社会的交換理論にはお構いなしだろうが・・・

 何れにしてもヤンクミさんは、5つの源泉を「蓄積」しつつ、自由奔放に自分なりのリーダーシップ・スタイルで、問題のある3年D組の生徒みんなをまとめ上げていくのである。

 リーダーシップの源泉を豊かにすることは、最適なリーダーシップ・スタイルの探求と同じ、若しくは、それ以上に重要なのであり、リーダーシップ開発トレーニングの際には、その「源泉」を強化するアプローチを検討する必要がある。

<独り言> そんな理屈はともかくも、『ごくせん』を観て、ウルウルするオジサンは、私一人ではないと信じたい。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp


2008

■ 戦略実行力の検証−4Cの適用

 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting Lee です。

 前回の4Cについて、賢明な読者の方から早速2つのメールが届いた。
 このコラム・コーナーは月に2本程度の執筆を目指しているが、今回は少し予定を早めご紹介させていただく。

 その一つは、「社会現象としての4C経路は理解したが、個別企業での実践的な4Cの考え方を示してほしい」という、言わば「戦略実行力の判定手法」を問う内容だ。組織・人財マネジメント(HCM)分析の考え方と言い換えてもよいかも知れない。

 まず私どものサービスラインを見ていただきたい。
 http://www.hc-consulting.jp/sub5.html
 この図にあるように、その要諦は、求められるビジネス・モデルと組織モデル、人財モデル(人財像)、そしてHCMシステム(仕組み)との整合的な連関を見切ることにある。

 例えば、ひと頃のIT産業の事例を見てみよう。
 「箱売り」つまりプロダクト売りから顧客の問題解決を志向するソリューション売りへの転換が叫ばれていた。求められるビジネス・モデルは至極単純、プロダクト・セールスからソリューション・セールスへということで、他のいくつかの業界においては、現在も重要な経営課題の一つかもしれない。

 このビジネス・モデルの転換に乗り遅れたIT企業の典型例は、次のような状況であった。

 中期経営計画に謳われるマーケティング・セールス戦略は成功を予感させるに十分なほど明確である。組織も顧客のインダストリ別に再編され、華々しく始動する。が、しかし・・・である。

< Career-Vision >

 ソリューション型ビジネス・モデルを体現すべき人財モデル(社員が目指すべき人財像)は不明確のままで、社員の能力開発の道筋を指し示すキャリア・ビジョンも提示しない。小手先の製品バリエーションや売り方の研修はあるが、顧客の課題を解決しソリューションを提供するためのキャリア開発は望むべくもない。多くの社員は暗中模索、月日が過ぎてもソリューション型人財は期待するほど増えない。

< Cash >

 人事制度も旧来のプロダクト・セールス、「売ってナンボ」つまり当期の販売台数・額に強く連動した短期のインセンティブ性が強いメカニズムが放置され、「足の長い」手間のかかるソリューション・セールスを促進させることはない。むしろ、要領の良い社員は「箱売り」で短期の報酬を得、その地位を確保する。

< Capacity / Capability >

 インダストリ別に縦割りされた組織は、業務の重複と増大をもたらし、同時に行われたフラット化によって、マネジャ層の負荷はピークに達する。ソリューション・セールスのOJTなど望むべくもない。現場での能力開発は遅々として進まず、優秀な人材ほど流動化の兆しを見せる。

< Community >

 事業方針では「ソリューションを売れ!」、でも現場のマネジャは「今期の高い売上目標は死守!」とばかりにプロダクトを売りまくる。社員はどちらを信じてよいか分からず、その行動規範は混迷の度を深める。さらには、ソリューション・ビジネスに不可欠なチーム内・外の協力体勢の基盤は徐々に崩壊する。

 結局、このようなタイプの企業はビジネス・モデル転換に大きく遅れをとることとなった。

 上記の事例で分かるように、戦略実現の可能性を高めるためには、ビジネス・モデルと組織・HCM戦略との整合的連関が極めて重要なのである。

 ところで、最後に2つめのメールをご紹介したい。「ダイヤモンドにも4Cがありますよ」というウィットに富んだ読者からだ。ダイヤモンドの価値は、Carat(質量)Clarity(透明度)Color(色)Cut(カット)の4Cで決まる。
 ダイヤモンドの原石は不恰好で濁りがあるように見えるそうだ。それを最高の技術者がカットし磨きをかけ手塩にかけて輝く商品に仕上げる。

 皆さんの「ダイヤモンド=人財」も4Cを検証することで、原石から光り輝く宝石に仕上げてもらいたい。

                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2008

■ 戦略実行力の衰退の真因

 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting Lee です。

 ここ数年「以前より中計の骨格はハッキリしてきたのだが、その実現が本当に難しい」「いくら良い事業戦略を立案しても実行力が伴わない」「賃金は上げたのに社員のパワーを感じない」等、経営トップの悲痛の叫びをよく耳にする。事業戦略の実現力が衰退しつつあると感じている企業は、想像以上に多いようだ。

 私は、企業組織の戦略実行力が、『失われた15年』を経て4つの経路<4C>を辿って衰退したのではないかと考えている。
 CashCareer-VisionCapacityCommunity の4C経路だ。

<Cash (生涯報酬)>

 人件費ファンドの圧縮や超短期志向「成果主義」人事制度によって社員の生涯報酬、すなわち長期的なインセンティブが低下した。
 特に、年功的色彩の濃い人事制度では、将来支払われるであろうと予測していた報酬(貯蓄?)に「徳政令」が布かれた。
 チームワークから個人中心へと軸足を移した「成果主義」のもとでは、社内の協力体勢をも毀損させた可能性が高い。

<Career-Vision (キャリア・ビジョン)>

 旧来の「主任→係長→課長→部長」という漠然とはしていたが、社員が信じるにたるキャリア・ビジョンが崩壊し、それに変わるビジョンが十分に提示されていない。社内でのキャリア・リスクが高まってしまったのである。
 そのような状況のままでは、力のある社員の流動化という事態も仕方のないことなのかもしれない。

<Capacity (現場の過負荷)>

 過剰なポスト削減やフラット化組織によってマネジャたちは多忙を極め、後進の育成をする余裕すらない。現場での「育成投資」が少なくなれば、自己の成長機会が失われたと感じた社員は会社方針に従う理由はないと考えても不思議はない。
 また闇雲なフラット化は、業務プロセスやバリューチェーンの競争優位性を蝕むことにもつながる。

<Community (企業文化・価値観)>

 社員が所謂「家族主義的」な従来の企業の価値観や文化、コミュニティの変容は受け入れたとしても、次なる希望の持てる新しい価値観とコミュニティの「再建」が不十分では、社員の行動規範の混迷をもたらす。
 経営トップのコミュニケーションの稚拙さや不足がその遠因となっているのかもしれない。
 
 多くの社員は、環境変化に対する企業の生き残り策として、このような状態を甘受しているが、経営トップへの信頼は大きく揺らいでしまった。事業戦略の実行力減衰の真因は、4Cの重層的な絡み合いがその正体なのである。

 したがって戦略実行力を高めるのは、一朝一夕では極めて困難といえよう。
 しかし、解はある。
 4つの経路で発生した問題であるならば、この4Cへの「合わせ技一本!」を狙うのである。

 賃金改善だけでは、社員のモチベーションと能力、組織のチームワークを向上させ、戦略実行力を高めるには力不足であろう。
 報酬体系の見直しだけでなく、キャリア・ビジョンや現場マネジメントの過負荷、価値観・バリューの変化について、各企業の再検証が求められている。
                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp

2008

■ 『成果を出す』への強いコミットメント

 クライアントの皆さま、Human Capital Consulting Lee です。
 本日より、私どものホームページを開設させていただきます。
 今後とも、ご愛顧賜りますよう、お願い申しあげます。

 このコラム・ページにおきましては、コンサルティングの理論と実践、他社事例の紹介・解説、最新情報のご紹介などを通じてクライアントの一助になればと考えております。

  『成果を出す』ことに強くコミットメントするのが、私ども
Human Capital Consultingです。

 最近、医療関連企業から友人を介して個人的に相談を受けました。規制緩和の流れを事業発展の起爆剤としている「優等生」企業です。

 「事業と組織が急成長し、社長の目が社員一人一人に届かなくなったため、シッカリした人事制度をチャンとしたものに改定しようと考えている。
Human Capital Consulting LEE式?)人事制度があれば、その説明をしてほしい」との趣旨の相談です。

 『成果を出す』ことを常に考える私どものアプローチは明確です。
 1. 人材開発など、人財(
Human Capital)や組織にかかわる施策のうち、なぜ人事制度なのか。
 2. 人事制度改革の目的が、今後のビジネスモデル・事業戦略を下支えするものになっているのか。
 3. クライアント組織・人財にフィットする人事制度とはどのようなものか。

 この3つの質問に応えることこそ、 『成果を出す』可能性を高めることになるのです。

 残念ながら、安易な発想での「XX式の人事制度」の導入は、百害あって一利なし。
 すでに多くの企業経営者が気が付いているとおり、まずは組織・人財戦略と人事制度改定の戦略的な目的、クライアント組織にマッチした制度要件を、トップ・マネジメントの視点から整理する作業を始めることが肝要です。
 
 人事制度導入に限らず、人財(
Human Capital)や組織にかかわる拙速な施策は、企業規模の大小を問わず、社員への強烈な「負担」と多大な「出費」という、計り知れない「コスト」を発生させます。
 経営者やトップ・マネジメント層は、このような「コスト」を、『成果を出す』ための戦略的な『投資』へと転換させる責務を負っているのです。
                                        李哲海
                                        Chulhae.Lee@hc-consulting.jp